お酒の作り手と酒蔵ボードゲームで遊んでみた「大和川酒造店編」
西新宿にある日本酒バルどろんの店主、和田です。
趣味が高じて日本酒酒蔵を経営し、経営の手腕を競うボードゲームを開発しました(2022年初夏発売予定)。
2年ほどの開発期間の中で思ったのが、
酒蔵経営ゲームを日本酒業界の人と遊びたい
ということ。
酒蔵の実情を知っているだけに、ゲーム開発者の予想を上回る強さとか見れそうですよね?
一方ゲームはゲーム。もしかしたら若い新入社員がベテラン杜氏を打ち負かすシーンも見たいですよね?
どういう展開になるのか…..。
想像するだけで、ワクワクします。
そこで早速、行動に移していきます。
GW明けの2022年5月、西新宿から電車を乗り継いで4時間。福島県の喜多方市にやってきました。
今回の目的地は、寛政二年(1790年)創業の大和川酒造店さんです。
定番の純米辛口弥右衛門は、冷酒でも燗でも本領を発揮する懐の深いお酒。常温でもイケるので、ボードゲームを数時間やりながらでも楽しめます。
お酒が美味しいのはもちろんなのですが、なんと言っても農業法人として設立された大和川ファームを通して、自社栽培しているお米でお酒を醸していること。
自社田自社栽培米の山田錦で醸したお酒が、全国、東北、福島県の各種鑑評会にて金賞を受賞するなど、福島を代表する蔵の一つです。
喜多方市内に自社田として52町歩ほどの面積でお米を栽培されており規模感も半端ありません。最近ではさらに、自然エネルギーの電力会社も設立されたそう。
収穫したお米を脱穀、乾燥させるなどの処理をする、ライスセンターにも少しお邪魔しました。
この規模の設備がある日本酒蔵は、なかなかないのではないのでしょうか?
こんなすごい酒蔵の杜氏とボードゲームができるなんて、贅沢すぎる。
佐藤杜氏ありがとうございます。
そして喜多方って、初めてきたのですが、飯がめちゃくちゃうまい。
会津田舎家さん、最高です。
あとはラーメンですよね。朝から食べるのが地元流なのだそう(全然知りませんでした)。
さて、グルメ情報はさておき、本題のボードゲームです。
プレイするのは、日本酒酒蔵ボードゲーム「蔵咲」。
各プレイヤーが蔵元となり、蔵の人材、お金、設備を駆使しながら経営手腕を競い合うゲームです。
今回プレイするのは、このゲームテーマにまさにどハマりのプレイヤーたち。
写真右上から時計回り
- 佐藤さん: 大和川酒造店杜氏(プレイヤー色 レッド)、以下佐藤杜氏
- 星野さん: 群馬県 土田酒造杜氏 (プレイヤー色 ブラック)、以下星野杜氏
- 榊原さん: 群馬県 土田酒造新入社員 農業経験者(プレイヤー色 イエロー)
- つけたろうさん: つけたろう酒店店主 熱燗DJ(プレイヤー色 グレイ)
- つけこさん: つけたろうさんの奥様(プレイヤー色 ブルー)
みなさんお酒の作り手だったり、販売をしていたり、何かしら蔵の運営や経営に関わっているはず。
ちなみに、このゲームでは日本酒の知識は必要なく、その知識量は勝敗には左右しません。
果たして勝つのは誰か。
ちなみにつけたろう夫婦は、一度このゲームをプレイしているというアドバンテージがあります。
「そもそも、なんでこんな豪華メンバーが揃っているの?」
というツッコミは置いておいて、ルールを説明後にゲームを始めていきます。
今回は時間の関係もあり、短縮版の3年間、プレイヤー5人で競い合い、一番名声ポイントを多く得た人がゲームの勝者となります。
日本酒酒蔵ゲーム開始
ゲームのルールブック上では、日本酒を最近飲んだ人がスタートプレイヤーとなるとしているのですが、みなさんは日本酒業界人なので、ジャンケンで順番を決めます。
土田酒造の期待の星、新入社員の榊原さん(イエロープレイヤー)がスタートプレイヤーになりました。
スタートプレイヤーはゲームの序盤に有利になる可能性が高いため、最後の順番となる星野杜氏からプレイヤーカードを選んでいきます。
プレイヤーカードには、ゲーム中有利になる自分の酒蔵のパラメーター設定が記載されています。
榊原さんは、「あなたはゲーム開始時に追加でイベントカードを2枚引く」というプレイヤーカードを選びました。イベントカードは、色々な便益を蔵にもたらしてくれます。
ゲーム中にどんなカードが使われるか楽しみですね。
ちなみにプレイしながら飲むお酒は、大和川酒造店の弥右衛門 カスモチ原酒。旨味と甘みのバランスがたまりません。
様子見の1年目
このゲームでは、秋、冬、春、夏の順番で一年が過ぎ、それぞれの季節で仕込みなどのアクションをとっていきます。
一番最初の秋の季節では「農家」や「経営」のマスを使い、原料調達や設備投資をします。各プレイヤーは蔵人を呈したワーカー駒をそれぞれ配置して、効果を発動できる順番を決めていきます。
注目の大和川酒造の佐藤杜氏(レッドプレイヤー)は真っ先に「雇用」を選択。赤のワーカー駒を置きます。
人が必要だと思ったのは、杜氏としての実際の経験からでしょうか?
次の季節から使えるワーカー駒が増え、戦術の選択肢が広がります。一方このゲームでは、ワーカー駒が増えるごとに金銭的な負担も増えていきます。
この選択が吉と出るか、凶と出るか。
全てのワーカー駒が出そろったところで、それぞれのアクションをとっていきます。日本酒の仕込みに必要な材料カードや、蔵の運営を助けてくれる経営カードを購入したりします。
冬には仕込みをします。ここでは、いかに市場需要に沿って仕込みをするかが重要です。
グレイプレイヤーのつけたろうさんは、2つあるタンクのうち1つしか使わずに、蔵人を総動員してクオリティの高い純米大吟醸を作ります。
理由は分かりませんが、自信満々ぶりは、さすがつけたろう酒店さんといったところ。
ニヤニヤしているのも気になります。
全てのプレイヤーの仕込みが終わったら、次の季節に移ります。
春には冬で仕込んだ日本酒の販売と、さらなる設備投資をします。
この季節ではブループレイヤーのつけこさんが、要領よく仕込んだお酒を販売していました。
ゲームを進めていると突然、
「がぁぁあああああ、しまったー」
と嘆くブラックプレイヤーの星野杜氏。
仕込みの時に気づかなかった判断ミスがあったよう。
「自分が経営判断を間違えたと分かるのは、後になってからなんだよね。それって経営じゃん?」
とつけたろう節も炸裂します。
さて、みなさん試行錯誤しながらプレイした1年目の途中経過ですが、
- つけこさん(ブルー) 名声10
- つけたろうさん(グレイ) 名声8
- 星野杜氏(ブラック) 名声8
- 榊原さん(イエロー) 名声5
- 佐藤杜氏(レッド) 名声0
という結果で次の年を迎えます。やはり、お酒を淡々と販売したアドバンテージが、つけこさんにありました。
残念ですが、佐藤杜氏は2つの日本酒を仕込みましたが、ゲーム上での条件を満たさず、今季は販売ができませんでした。1つは熟成酒に回し、もう1つのお酒は熟成の条件を満たさずに破棄することに。
せっかく作ったお酒を破棄することになるなんて….。
現実ではあまりないことかもしれませんが、これは経営ゲームの世界。結構シビアです。
さらに予定していたお酒販売の収入が得られなかったので、給料を支払うために借金をします。ゲーム中にいつでも返済は可能なので、次の年からの逆転を狙います。
大きく動いた2年目
2年目に入り、各プレイヤーは各々要領を掴み、戦術を立てているようです。
ここまで健全経営を目指してきた5人ですが、暫定順位1位のつけこさんに「ネット炎上」カードが使われ、せっかく貯めた名声(VP: victory pointの略)ポイントが3も下がってしまいました。
イベントカードの中には、他の蔵を邪魔するカードも含まれています(このようなカードを抜いても遊べます)。友好関係の悪化には十分注意が必要ですね。
ブラックプレイヤーの星野杜氏は、借金をしながらも「大型精米機」や「コンサルタント」を導入しつつ、リターンが大きい熟成酒も視野に入れながら販売を狙います。直近に購入した「製造部長」カードはあまり有効な投資ではなかったよう。
ワーカー駒の置く順番で自社製品の販売可否が決まるので、ボード上では熾烈な争いが繰り広げられています。(写真では、その熾烈さは伝わりませんが。)
ここでつけたろうさんが、イベントカードの「直売」と「品評会金賞」を使って、他プレイヤーを引き離しにかかります。ゲームの進行具合により、イベントカードが非常に有効なケースとそうでない時がありますが、今回は前者のようです。
追いかける4人も今年はうまくお酒をうまく販売できたようですが、暫定1位は2位に名声7の差をつけ、つけたろうさんで変わらず。
暫定2位の土田酒造新入社員の榊原さんも悔しそう。結局は酒屋さんに持っていかれるのか…..。
酒屋に振り回される3年目
3年目に突入後すぐ、1位のつけたろうさんによって「醸造トラブル」のカードが使われ、せっかく投資した他プレイヤーの設備の効果が一部なくなってしまいます。
えぐい。
一同一斉に、「マジかよ」の声….。
経営や酒造りには、ハプニングはつきものですよね。
それにもめげず、プレイヤーたちは蔵の運営を続けなければなりません。
今季はゲーム最後の年。お金を稼ぐ「酒蔵ツアー」へとワーカー駒が集中します。
冬の季節の仕込みでは、みなさん気合が入っています。暫定2位の榊原さんはなんと、秋の季節で競り負けてうまくお米の調達ができませんでした。
なんとか純米酒と本醸造酒を仕込んで数を稼ぎ、販売に備えます。
しかし…
突然、暫定1位のつけたろうさんが、暫定2位の榊原さんに「火落ち菌」カードを使用。
どーーーーーん!!!!!
なんと、せっかく作ったお酒のクオリティが半分になり、販売での制限がかかる可能性が上がってしまいました。
火落ち菌をばら撒く酒屋さんなんて、聞いたことがありません笑
(実際にばらまけるのか?という疑問は残りますね)
そして、最後の春。
途中で怒涛のイベントカードラッシュがありましたが、各プレイヤーはなんとか仕込んだ日本酒を販売し、借金の返済や最後の給与の支払いに備えます。
果たして、勝者は…。
最終順位は:
- つけたろうさん(グレイ)名声43
- 榊原さん(イエロー) 名声36
- 佐藤杜氏(レッド) 名声34
- 星野杜氏(ブラック) 名声34
- つけこさん(ブルー) 名声33
という結果に。2位以下はかなりの僅差でした。
今回は、お酒販売からの他プレイヤーたちの名声が伸び悩む中、イベントカードを駆使したつけたろうさんの戦略が功を奏した形となりました。
リソースの使い方としては、何が出てくるかわからないイベントカードに掛けるのは一か八かなのですが、カードの引きの良さもあり、他プレイヤーの追随を許しませんでした。
2位は新入社員の榊原さん。他のプレイヤーを邪魔するなどの目立つことはあえてせず、淡々と名声をためていきました。つけたろうさんの妨害がなければ、どうなっていたか分かりません。
何か才能を感じさせる新入社員さんです。
佐藤杜氏と星野杜氏は同ポイントの3位タイ。
大和川酒造の佐藤杜氏は1年目の名声(ポイント)はゼロでしたが、つけたろうさんイベントカード攻勢の裏で、後半にかなり巻き返しました。
土田酒造の星野杜氏は、ゲーム中手番が後の方になってしまいがちで、自身の狙っているアクションをなかなか取れなかった模様。実際の造りのように、お米の調達や、蔵の施設拡充に力を注がれていたのが印象的でした。
現在のゲーム設定にはありませんが、「菩提もと」のような特殊カードもあっても面白いですよね。
お二方とも
「蔵の人間とまたやりたい」
と仰ってくださり、開発者としては嬉しい限りです。
気付いたら夜も更けてきました….。
皆様お疲れ様でした。
また機会がありましたら遊びましょう!
日本酒酒蔵の経営手腕を争う、「蔵咲」。このようなスリリングがゲーム展開が楽しめます。
2022年6月〜発売予定。テストプレイ会も今後予定しておりますので、最新情報は当店のTwitterでチェックをお願いします。